2020.12.06 07:07
- #中東文学
2020.11.05 11:11
米大統領選が決着した。
事前に実施された世論調査結果とは異なり、最後まで結果の分からない激しい接戦が続いた。
ある意味で、私たちは世界線の岐路に立っていたと言えるのではないだろうか。 民主党と共和党、どちらが勝つかによって世界の流れが大きく変わることは間違いな買った。SF好きの読者であれば「もし、逆の政党が勝っていたら…」などと、想像を巡らせることもあるのではないだろうか。
SFの世界では、別の世界線が選ばれた「もしも」の世界を題材とした名作が多く存在している。今日は「あったかもしれない」別の世界線を描いた歴史改変SFを紹介していこう。
出典: Amazon
『高い城の男』は、SFの巨匠、フィリップ・K・ディックの短編小説である。
原作をもとにした、Amazonのオリジナルドラマも制作されている。
ドラマでは、原作のユニークな設定に加えてオリジナルの登場人物も多数登場し、権力や自由をめぐって、さまざまな欲望が交錯するスリリングな群像劇に仕上がっている。
出典: Amazon
舞台はナチスドイツと日本に分断統治されたアメリカ。
表では友好関係を築きながらも、冷戦状態が続くドイツと日本。そして、革命を起こそうと抗うレジスタンス団。彼等はそれぞれが「高い城の男」を探している。その「男」は、米国が勝利する世界を撮ったフィルムを持っていたのだった。
ドラマはシーズン4で完結している。ストーリーはさることながら、ナチスと日本の支配下に置かれたニューヨークやロサンゼルスの社会が、緻密に描き出されている。
日本人の我々にとっては、日本の俳優に親しみを覚えたり、カタコトの日本語や「ハラキリ」などの描写に、思わずクスリと笑ってしまうシーンもあるだろう。
話が進むにつれて解き明かされていく謎と、外交の中で渦巻くそれぞれの思惑により、始終興奮させられること間違いなしだ。
全てのシーズンを見るには少し時間がかかるが、ハードなSFが好きな方には、自信を持ってお薦めできる一作だ。
出典: Amazon
第二次世界大戦の結末が違う結果であったことをモチーフとした作品は多く存在し、比較して鑑賞するのも面白い。本作の著者、レン・デイトンはイギリスの作家で、作家になる前はデザイナーだったという面白い経歴を持っている。彼の著作にはノンフィクション作品が多く、この作品も非常にリアルな筆致が魅力的だ。
舞台は、英国がナチス・ドイツに降伏した世界。英国民は貧しい生活を余儀なくされ、収容所に入れられる者や、労働力としてドイツへ連れて行かれる者も少なくなかったが、一部ではレジスタンス活動も続けられていた。
主人公の警視ダグラスは、ロンドンで闇物資の取引上のトラブルと思われる殺人事件の捜査の中で、激化する勢力争いに巻き込まれていくー
SF作品であるものの、刑事と共に謎を追う、ミステリーとしても楽しめる一作になっている。
ちなみに、こちらもAmazonでドラマ化がなされている。ディストピアと化した英国の街並みの豪華な映像は圧巻だ。こちらも時間があれば是非チェックしてほしい。
出典: PRtimes
出典: Amazon
本作は『星を継ぐもの』で有名なジェイムズ・P・ホーガンの小説だ。
電子工学を学び、技術者として働いた経歴を持つ彼の小説には、ギークな読者の心をときめかせるテクノロジー要素がふんだんに盛り込まれている。
舞台はナチス・ドイツが第二次世界大戦で圧倒的勝利を収め、世界の大部分を支配した世界。遂にはアメリカ合衆国の征服をも目論むナチスドイツ。アメリカにとって最後の希望は、過去へと精鋭部隊を送りこみ、歴史の進路を変える「プロテウス作戦」だったー
TENETを彷彿とさせる世界観で、枝分かれした世界線が行きつく先には目が離せない。
出典: Ameba
次は、SFというより政治サスペンス色が強い作品を紹介したい。
もしケネディの暗殺が、「未遂」だったらー
1963年11月22日、米大統領ジョン・キャシディがダラスで狙撃された。病院に担ぎこまれた彼は、からくも一命をとりとめたものの、次期大統領選出馬を断念。一方、狙撃犯は逮捕され、一件落着かに見えたが、現場で別の不審人物を目撃したFBIのサリバンは独自の調査を開始するー
60年代のアメリカは、人種差別問題の激化、キューバ危機、ベトナム戦争と、激動の時代であった。もし、大統領の暗殺が未遂に終わっていたとしたら、今のアメリカは違う姿になっていたのだろうか。実際にこのような出来事があったのではないかと思うほど、リアルな世界が描き出されたこの作品。史実にも基づいて物語が展開していく上に、当時のアメリカを生きた、実在の人物もモデルとして登場している。 当時の歴史を学びなおしてから読んでみると、より一層楽しむことができるだろう。
出典: amazon
こちらは、フランスの鬼才、ミシェル・ウェルベックの近未来SF小説である。
ウェルベックといえば、その辛辣な描写で、新作を出すたびに賛否両論を巻き起こすことで有名だが、この作品もまた然りであった。
舞台は2022年のフランス大統領選。極右政党とイスラム政党の決戦投票が行われ、最終的にはイスラム政党が勝利する。国民の選んだ一票がきっかけとなり、人々の生活から価値観まで、社会が大きく変貌していくー
かなり極端な世界が描写されているように捉えられるかもしれないが、同時にこの作品が「予言書」であるという声も絶えないのは事実だ。
国の変化により、暮らしは、人は、どう変わっていってしまうのか。まさに今、もう一度読んで欲しいSFと言えるだろう。
出典: amazon
最後に日本の作品を紹介したいと思う。
舞台は連合軍を相手にゲリラ戦を繰り返す、「五分後の日本」。人口はたった26万人に激減していたが、人々は日本国民であることへの誇りを失わず、貧しいながらも毎日を必死に生きている。
最後に主人公が選び取る決断を、貴方はどう感じるだろうか。
惰性で生きる現代人に警鐘を鳴らす衝撃作を、是非手に取ってみて欲しい。
どの作品も「本当にこんな世界があったかもしれない」と思えるほどに、リアルな世界観が描かれており、ページをめくる手が止まらないこと間違いなしだ。
私たちの未来も、たった一つの選択次第で、平和に向かうことも、はたまたディストピアに向かってしまうこともあるかもやもない。
「もしも」の世界に浸りながら、どのような未来を選び取るべきなのかを、いま、この機会にじっくり考えてみてはいかがだろうか。