2021.01.24 12:12
- #映画まとめ
2020.11.03 03:03
SF映画におけるコスチュームの役割は大きい。遠い未来の世界、はたまた遠い銀河系など、私たちの住む世界とは全く異なる土地や文化を生きる人々の暮らしを物語り、映画の世界全体に深い印象を与える重要な役割を担っている。
この特集ではSF映画の衣装に焦点をあて、その魅力を余すことなく伝えていきたい。
記念すべき第1回は、誰もが知る名作、STAR WARSについて取り上げる。
スターウォーズとは何かについて、この記事で言及することはしない。
また、「遠い昔、はるか彼方の銀河系で」で起こった「全宇宙を巻き込んだ壮大な親子ゲンカ」と揶揄されるSTARWARSをSFという定義の中で語るべきか、という議論はこの場では置いておこう。
(ジョージルーカス監督自身が「スターウォーズはSFではない」と断言していることを知っていた上で、この記事を書いたことをどうか許してほしい。)
1977年に初めて劇場公開されたSTARWARS エピソード4では、宇宙戦争という壮大な世界観と、魅力的なキャラクター達の活躍に誰もが熱狂した。
世紀が変わり、ウォルトディズニーに引き継がれた今、スターウォーズシリーズは、世代を問わず愛され続けている。
たとえ映画を観たことがない人でも、ストームトルーパーやR2-D2など、アイコニックなキャラクターの存在を知らぬ者はいないだろう。現代においても数々のブランドがそのアイコンを採用したコラボ商品を発表ほどに、スターウォーズのキャラクターデザインは普遍的に愛され続けているのだ。
「スカイウォーカー・サーガ」と言われる9作品の公開順序はエピソード.4-6 、1-3、7-9の順であるが、今回は、銀河系の年表に合わせ、ep.1-3からコスチュームの系譜を辿っていこう。
全作品の中でも、圧倒的に華やかな印象を残すコスチュームは、やはりトリシャ・ビガーがコスチュームを担当したep.1-3だろう。
ep.4-6以降の、帝国の支配とジェダイが激減して、人々が希望を失った時代とは異なり、ep.1-3では洗練された文明を背景に、莫大な資産と強大な権力を持つ人々が登場する。
観客は、贅を尽くした銀河の首都に訪れ、高度ながらも腐敗した文明世界を目撃するのだ。
登場人物たちの衣裳には、私たちの世界にかつて実在していた民俗や文化、宗教などからのイメージがふんだんに盛り込まれ、そしてそれらが新たに組み替えられている。アメリカ、ヨーロッパ、中国、インド、そして日本と、世界中からかき集められた多様な時代の伝統と文化の片鱗を見ることができるのだ。
先ほども述べたが、ジョージルーカス監督は、この映画を全くSF映画と思っていなかった。だからこそ、STAR WARSの衣裳は、我々人類の歴史を再解釈することで、観た人が無意識のうちに、ある時代や地域を連想できるよう設計されているのだ。
ジョージ・ルーカス監督に「今まで出会った中で最も才能のあるデザイナー」と言わしめた彼女のイマジネーションは計り知れない。
エピソード1だけをとっても制作された衣裳は1000着余りに及ぶ。
素材の選定から、細部のディティールに至るまで、様々な地域の伝統・文化・生地を融合させた彼女のコスチュームデザインは妥協を知らない。
さらに驚くべきことは、これらの衣裳を1年弱という短期間で、彼女が創り上げてしまったことだ。
映画のコスチュームを制作するにあたり、彼女が最初に行ったのは、コンセプチュアル・アート部門とともに各惑星のカラーチャートを作ること。そして素材の選定だったという。
各惑星の気候や文明のレベル、どのような気性をもつ人々が暮らしているのか。それらについて明確なイメージを、デザイナーである彼女とチームが共有いたからこそ、細部至るまで、各惑星のあらゆる衣裳、そしてプロダクトをデザインできたのだ。
数々のコスチュームが登場する中でも、女王・アミダラの衣装は別格といえる。 パドメ・アミダラのコスチュームは、彼女の人生を辿る役割を担っている。
それは女王という立場にふさわしい装束、落ち着いた元老院での装い、ルーズなマタニティウェアからウエディングドレスまで実に多様である。
「女王とその次女の服装は決められており、式典の礼装ではその装飾にも決まりがある。それは、ナブー社会に長く伝わる、彼女たちの不変の役割象徴するものだ」
というアイデアのもとで、それぞれのコスチュームがデザインされている。
コスチュームをイメージだけでデザインするのではなく、架空の惑星の伝統や文化を根付かせることで、キャラクターをよりリアルに描き出し、我々ははるか彼方の銀河系に赴くことができるのだ。
アミダラ女王のドレスには、他にも面白いエピソードがある。
「エピソード1のコスチュームは、特定の動きだけを考えてデザインされている」とトリシャは語っている。
映画の衣装は、走ったり床に転がったりするシーンさえなければ、その制約なしに衣裳を作ることができる。これはファッションデザインとの大きな違いとも言えるだろう。
当初、立っているシーンのみを予定していた玉座の間での衣裳は、構造的に椅子に座ることが出来ないドレスだった。しかし、制作途中で急遽座るシーンが出てきてしまったため、トリシャは衣裳を改造するのではなく、そのドレス専用の椅子を作ることで解決した。
このように、SFの世界であれば、我々の常識に合わせる必要はない。衣裳をもとに新たなプロダクトをデザインしても良いという点も、SF映画ならではの醍醐味と言えるのではないだろうか。
アナキンのコスチュームは幼少期から徐々に暗く変化していき、エピソード4「シスの復讐」の最後にはダースベイダーの装束に身を包む。つまり、彼の堕落がコスチュームデザインという形で具現化されているのだ。
しかし、そもそもシスとはジェダイの反逆者であり、フォースの暗黒面である。
そのため、シスの服装にもジェダイとの僅かな類似性が持たせることで、彼等が共通の過去を持つことを暗示させている。
軍服という観点では、他にも注目したい点がある。
ライフセーバーを用いた戦闘はスターウォーズに於いて重要なシーンである。
映画を見ると、長時間にわたる戦闘シークエンスでもコスチュームが美しく映えるよう、ジェダイとシスの服装も細部までこだわって設計されていることが分かる。
例えば、レイ・パークの衣裳はチベットのラマ僧がヒントになっており、目の粗いシルクと、リネン混紡の手染めの生地が採用されていて、円形のパーツにはサンレイプリーツが施されている。
戦闘のシーンなると身体の回転に伴って広がり、まるで手裏剣のように布が空を切り裂く。侍の一騎討を思わせるような殺陣に合わせて、コスチュームが戦闘シーンをより魅力的に仕上げているのだ。
次は、素材という観点からコスチュームを見ていこう。
「クローンの攻撃」の結婚式でアミダラが身に着けたウエディングドレスに、憧れた女性も少なくないのではないだろうか。
監督が思い描いていたのは、ナブーの別荘でひっそりと執り行う、慎ましい結婚式だった。
それを実現するためには、極上の生地で出来た、簡素かつ美しいドレスを作るための生地が必要だった。そのヒントは、エドワード朝時代の後期のヘッドスプレッドから得られている。実際に映画で使用されたヘッドドレスは、エドワード朝時代のワックスフラワーの飾りとビーズパールがあしらわれている。
美しい刺繍が施されたドレスには、11枚の知るクチュールの上に、アンティークレ―スが縫い付けられている。年代物の生地は手に入れられる量が限られていたため、デザインチームは元々のデザインを変更し、300mを超えるフレンチニットの組みひもを作り、コーネリー刺繍のパネルを組み合わせることで一着のドレスに仕上げられたという。
生地にまで徹底してこだわり、生み出されたドレスは、ナタリーポートマン演じるパドメの美しさを最大限に引き出している。
アミダラといえば、ナタリーポートマンが施したそのメイクアップも印象的である。
印象的なアミダラのメイクは、ジョージルーカス自身の発案だったという。白塗りの顔に、赤の点を打ったチークと口紅。これらは日本の平安時代の公家の女性を連想させる。
白塗りにした背景には、本物の女王と偽物の区別がつきにくいというセキュリティと、文化的な成熟度を表現する意図があった。
このアミダラや侍女のメイクアップは、当時の女性たちを虜にし、当時イヴ・サンローランから「アミダラ・レッド」のルージュが発売されたほどだ。
知的で気品に満ちていながら、情熱的なアミダラ女王のメイク、是非試してみてはいかがだろうか。
アミダラの葬儀のシーンは、「オフィーリア」を連想させる。
波打つような美しいブルーグレーのシルクと、長い髪、散りばめられた宝石と花々により、まるで水に沈んでいるかのような効果を与える。宇宙カプセルにも見える未来的な棺の中に、私たちはシェークスピアの悲劇のヒロインを見出すのだ。
この衣装は起こる悲劇を連想させると同時に、このシーンからはパドメとアナキンが恋に堕ちたナブーの湖畔の別荘の風景が思い出される。それは彼女の魂が、湖に還っていくことを象徴しているのだ。
エピソード1~3の衣裳だけをとっても、まだまだ語りきれないが、今回の特集はここまでとし、次回はエピソード4以降のコスチュームを見ていきたい。待望のダースベイダーの装束についても紹介する予定だ。
もう一度スターウォーズシリーズを観たくなった読者も多いのではないだろうか。衣裳に注目しながら、鑑賞することで、きっと新しい発見があるはずだ。
(written by Nanica Marui)
・Dressing a Galaxy(トリシャ・ビガー著 / 2016)
・High Fashion 1999年 6月号
・流行通信 2005年 8月号
・the kessel runway http://www.thekesselrunway.com/queen-amidala-inspired-fashion/